新宿の目
去年の暮れに横浜であった展示会を見る用事のついでに
気になったパブリックアートを見に東京へよった
新宿駅のすぐそばにあるスバルビルに『新宿の目』という壁面作品があり
一目見ようと思ったのだ
壁一面にガラスで作られた大きな目
写真で見た時点で威圧感が凄い、目線だけで人が殺せそうだ
作者は宮下芳子。調べたところホテルや旅館などの公の場所にこれまで作品を置いている所はいくらかあるが絵など比較的小さな作品はあまり出回ってないようだ
作品集などはあったか不明。
実際見ると、禍々しさと美しさと大きさにすっかり感動して一時間くらい
眺めたり撫でたり写真を撮ったりしていたけれど飽きなかった。
この世にはまだ美しいものがたくさんあるし増えているはず
帰りの新幹線は比較的混雑していて、私の隣には小学生くらいの小さな女の子が
座っていた。お母さんのとなりに座ることができず前後になったのだ。
はしゃいだように後ろの母親に何かをせがんでいる
なにをそこまで……と恐る恐る横目で見ると女の子の手にはピカチュウの顔を模したドーナッツががっちりと鷹のごとく掴まれていた。
まぁ好きだよなおいしいしな。
よほど嬉しいのかうふふと声を漏らすばかりでなかなか食べない
チョコレートでコーティングされたピカチュウは暖房のせいで微かに溶けてきてる
気のせいか最初見た時よりピカチュウは5歳ぐらい老けている。
早く食べた方がいいと思うのだが、私だって気に入ったものをいつまでも
眺めて飽きない性分だ、さっきだってポケモンの1000倍ぐらいこわい目を見て
いたし飽きれる筋合いはない。
そうこうしているうちに女の子はやっと耳をゆっくりと齧りだし
片方を食べ終えると再び手を止め固まった。
沈黙。
奇妙な沈黙に耐えかね私がおもいっきって横を見ると女の子は
通路の一点を見つめたまま微動だにせずたまに大きめのため息をついていた。
飽きてんじゃん……思いのほか大きかったのだ。
激しめにお母さんに催促して無理やり出してもらった手前自分からいらないとは言えない。
先ほどまでのしあわせは消え、旅行あるある地獄編のはじまりに笑いを堪えるのが辛くなるピカチュウの顔面は45歳くらいになっていた。