ぐつぐつと全力
誕生日の前日に行きたかった美術展が最終日であることに気がついて
慌てて電車に飛び乗った。
この数カ月は家と職場とAmazonとメルカリしか記憶がない生活が続いていた。
仕事などは荒れに荒れ、今用意できるトラブルは一通りそろえておきましたというような有様で、これで健康なのだからもう良しとすると日々無表情に過ごしていた。
ゴジャゴジャ言っても仕方がない。
不安や愚痴を言って事が改善するのならば私は国を代表するくらいの才能はある。
口がすこぶる悪いし、不吉な事ならいくらでもいえる。
しかし村上春樹さんも言うように、おきたことはおきたことだし
まだおきていないことはおきてから考えれば良いのだ。
不吉な不安を他人にばら撒いて安心しようとするのは小心者ではない、
厚かましいだけだと今ならわかる。
美術展のタイトルは
『美術館に行こう!ディック・ブルーナに学ぶモダン・アート
の楽しみ方』というもの。ミッフィーと仲間たちのシルクスクリーンや
ブルーナさんのデザイナーとしての仕事、影響を受けたアーティストなどの作品が
展示されている。
ミッフィーちゃんが描かれたシルクスクリーンの見事な仕事ぶりに唸り、
目当てであったアンディーウォーホルの作品の前で「何色から刷りだしているか
確認」したのち辺りを見渡すとマティスやピカソ、モンドリアン、カンディンスキー
岡本太郎などがあり、推しが……😳と圧倒されたとき、比喩ではなく
本当に後頭部あたりがぐつぐつと震えて飢えていたものが補充されていく実感があった
常設展にもウォーホルの作品があってやはり刷り順を確認しジュリアン・オピー
や奈良美智、横尾忠則、船越桂となんだかヒーローショーみたいな仕上がりに
ぐつぐつが止まらなかった。
その中にいた版画家野田哲也の作品「日記1978年2月10日」を眺めながら
私の生まれた年だと思った。
友人が私の誕生日にプレゼントを用意しようとしてくれたので
それはいいから、家でちょっと豪華な夕飯でも作って離れた場所からお祝いしてよと
冗談を言った当日、鳥の丸焼きとワインの画像が送られてきて笑った。
丸ごとのニワトリはどこから手にしたのだろうか。オーブンで焼いたのか。
本当に全力で祝ってくれてるやん。いい誕生日になった。